2002年8月21日

山口市長
合志 栄一  様

要望書
 

 貴市におかれましては、日頃より障害者福祉の推進に取り組んでいただき、まことにありがとうございます。
 さて、かねてより要望させていただいております市営住宅内における重度身体障害者の集団生活の制度化について、前回5月9日の貴市との交渉において、貴市から「障害者福祉計画の中で検討していきたい」と発言いただきました。ついては、以下の2項目を福祉計画に盛り込んでいただけますようお願いいたします。1項目ずつ、具体的に検討されるよう、お願いします。

1.矢原市営住宅内に、重度身体障害者が共同生活する空間を確保することを、障害者福祉計画のモデル事業とすること

2.「専従介護者」の介護料を含めた、「グループホーム・アルゴ」の運営費への助成

以上
 

1.矢原市営住宅内に、重度身体障害者が共同生活する空間を確保することを、障害者福祉計画のモデル事業とすること

 具体的には、このたび改築される矢原市営住宅において、5世帯分を並べて確保していただきたいと思います。
 重度身体障害者の自立に、「グループホーム・アルゴ」(以下、アルゴと略)で10年にわたり実験的に取り組まれている重度身体障害者の集団生活は大きな成果を上げてきました。
 入居している者にとっては、ひとりで生活しているときには見えなかった自分の可能性や自分が失っているものが、一緒に住んでいる障害者の仲間や、介護に来てもらっている地域の人々から指摘されることで、取り戻すことができております。施設などの周囲に住んでいる障害者にとっては、外泊場所や、自立トレーニングの場として機能し始めております。
 私たち重度身体障害者は、あまりにも長い間、自分で判断する機会を奪われてきた結果、自分で判断することが困難になっています。生活上の困難があっても、社会が自分を受け入れないからだと責任転嫁しがちになっています。
 これと私たちが向き合うまでには、障害者同士の日常的なピアカウンセリングや、幅広く参加してくれている地域の介護者からの助言が不可欠でした。アルゴを通した日々の営みによって初めて、私たちは、奪われた自己の修復ができ、互いを元気づけ、自分に自信を持てるようになってきました。
 また私たち「やまぐち障害者解放センター」(以下、センターと略)のよびかけに応えてくれた、センターの登録介護者には、幅広い年齢層や職業、学校の方がいます。
 毎月、介護者が自主的によびかけ行っている介護者会議では、そのような幅広い層の介護者が、アルゴでの日常の介護で気づいたことを話題にして、皆が真剣に障害者の自立について語り、障害者と健全者の対等な関係を模索しています。コミュニケーションが希薄になってしまった現在において、社会的弱者といわれている私たち障害者を中心にうまれている、この新しい地域社会ありようを重視していただきたいと思います。
 しかしながら貴市もご承知の通り、現在のアルゴの家屋では、これら成果を維持・発展させることに支障がでております。
 まず、現在の家屋の老朽化の問題があります。今の家屋はもはや倒壊の危機にあります。大家さんも心配されて、ほかの家に移ることを促しております。が、障害者に対する周囲の理解が深まったと言われる今日この頃ではありますが、重度身体障害者が集団で住む家屋を借してくださるところは、私どもが2年前の夏に四方八方探してみたものの、市内には1件もありませんでした。そこで、貴市の福祉計画の一環でもあります障害者の住宅保障の具体化するものとして、このたび改築される矢原市営住宅の中に、私たち重度身体障害者が集団生活できる場を確保していただきたいと思います。
 加えて現在の家屋では、入居者の個室が廊下も兼ねているので、入居者間でのプライバシーの確保が困難になっています。家屋の手狭さのために、新しい入居希望者に対応できないのも現実です。また、入居者全員が一同に会すことのできる居間は、引き続き必要です。以上を考え合わせて、市営住宅内に隣り合わせて5世帯分を確保していただきたく思います。
 そして、アルゴでの実験的取り組みを維持・発展させるには、市町村を実施主体とすることが最適かと思います。最も安定して障害者の自主性の尊重が追求でき、アルゴでのありようをモデルケースとしながら地域全体の障害者福祉を効果的に増進していける主体は、地方自治体であると思うからです。
 以上、申し述べさせていただいた、アルゴで実験的に取り組まれている重度身体障害者の集団生活を、モデル事業として「障害者いきいきプラン」に盛り込んでいただくよう、私たちと共に県に要請されることをお願いいたします。
 最後に別紙に上げたように、私たちが10年かけてつくりあげてきたアルゴのありようを、モデル事業として維持・発展していく場合の要項を作成しましたので、よろしければご活用下さい。
 

2.「専従介護者」の介護料を含めた、「グループホーム・アルゴ」の運営費への助成

 「やまぐち障害者解放センター」(以下、センターと略)は、1992年に会員制の任意団体として設立しました。障害者と健全者がともに生きる社会を実現するために、施設・地域を貫いた広範な障害者と、幅広い層の地域住民からなる介護者を通して様々な活動を取り組み続けています。
 「グループホーム・アルゴ」(以下、アルゴと略)の運営は、センターに集う多くの障害者・健全者の力添えがあって初めて成立しているのが実態です。
 アルゴでの、ヘルパー派遣時間外の介護にあたっている介護者は、センターの活動として地域でよびかけて、来てもらっています。介護上でのトラブルが生じた場合にはセンターの事務局員一同で解決にあたり、解決してきました。また、介護料の計算といった煩雑な事務的作業も、センターの事務局が責任をもって担ってきました。会計簿については、望まれればいつでも開示できるほど整理されています。
 センターの事務局の活動には現在、アルゴの住人だけではない地域の障害者と、センターが任命している「専従介護者」(以下、専従と略)があたっております。アルゴ入居者である障害者と、アルゴの近くに住む障害者は、センターの事務局を担うことで、自分の立場・言動などへの責任をとるというでの自立をしていくことへ果敢に挑戦してきました。同時にそのことを通して、障害者の生活にハリがでてきていることが確認されています。また、センターの事務局が活動することで、センターに集っている施設や地域の障害者も元気づけられています。
 このことは、専従のサポートがあってより効果的となっています。なぜなら私たちは、各自の人生経験から、同じ言葉でも意味合いが違ってきています。会話の整理、記録、助言などが、粘り強く続けられなければ、あまりにも長い間の施設生活で失った他者とのコミュニケーションを、取り返すことが難しいのが現状です。以上の役割を果たしている専従の役割は、センターの事務局の中で、大きいものとなっています。
 貴市におかれましては、このようなセンターの活動を、地域全体の障害者福祉を推進しているものとして、ぜひ重視していただきたいと思います。そして、特にセンターの活動を支えている専従の生活保障を含めての、「グループホーム・アルゴ」の運営費への助成をお願いします。
 私たちが住む山口市を、福祉先進都市として広く全国に知らせていくためにも、ぜひご検討のほどよろしくお願いします。

 

重度身体障害者の集団生活の場の確保による
障害者福祉の増進をはかる事業要綱(案)

●目的
 目的は、重度障害者の自立の促進、地域交流とする。

●実施主体
 実施主体は地方自治体とする。

●管理者
 「グループホーム・アルゴ」の管理人は入居者とし、管理上の諸問題については入居者会議を通して決めていくものとする。

●管理規定
 「グループホーム・アルゴ」内の管理規定は、入居者が入居者会議を経て決めるものとする。
 各入居者は、会計や介護調整など「グループホーム・アルゴ」運営上の何らかの仕事を持ち、責任を持つこととする。

●住宅の条件
 入居者個々人分の個室に加え、入居希望者が「自立支援プログラム」に基づいて体験入居する際の居室、さらに入居者が一同に会することのできる居間を確保することとする。

●入居者会議
 入居者会議は、毎週アルゴ全入居者の参加でもって、アルゴ内で行うものとする。

●入居条件
 入居者は、以下の条件を満たせば十分とする。

・日常生活上の援助を受けないで生活することが、可能でないかまたは適当でないこと。

・自立への意志を持つこと。自立への意志の有無が入居の前提とされている点が、施設などとの違いとするので、入居は、本人の自立の意志のみで決定されるべきとする。入居にあたって、親など家族の承諾は必要としない。具体的には、「自立支援プログラム」を通過することで、アルゴへの入居はされるものとする。

●自立支援プログラム
 「自立支援プログラム」とは、「やまぐち障害者解放センター」が策定する自立支援計画である。
 具体的には、幾度かにわたる「グループホーム・アルゴ」への体験入所を通して、自分の生活を自分で組み立てること、その場その場の介護依頼は自分がするべきものであることなどが、自立のためには求められることを理解してもらうことをねらうものとする。

●介護体制
 日常生活の介護については世帯別に使える制度である、ホームヘルパー派遣や、生活保護における大臣承認の他人介護料加算などはすべて使えるものとする。
 夕方・夜の介護者は、地域交流と入居者の自立を実現するため、入居者が責任を持って探すものとする。

●入居者の収入について
 入居者個々人の収入については、個々人の生活にあわせた行政サービスを受けることができるものとする。集団生活をするからといって、同一世帯扱いはされないものとする。

●食費・家屋維持費について
 当面、食費・水光熱費・家屋維持費などをまかなうため、入居者は月4万円を負担するものとする。家賃は、会計担当者に各自が受け渡し、会計担当者が責任もって納付することとする。
 会計処理は、入居者全体の承認を得たものがすることとする。会計処理は、入居者が行うものとする。

●緊急時について
 緊急の病気、障害の進行は、本人の希望により最寄りの医療機関で治療するものとする。