2001年5月28日

山口県知事
二井  関成  殿

要望書
 

 貴職障害福祉課におかれましては、日ごろより障害福祉の推進にご尽力賜り感謝申し上げます。
 私たち「やまぐち障害者解放センター」は、障害者と健全者が共に生きる社会をつくるために、障害者と健全者が共に行動する集まりです。具体的な取り組みとしては、他県市のように山口県でも、公的な身体障害者向けのグループホームの設置が実現されることを目指して活動しております。
 昨年山口市に、身体障害者向けのグループホーム設置を要望いたしましたところ、「今後の国の動向を注視しながら、市としてもグループホームの設置を研究してまいりたい」という返事でした。
 当センターには山口市以外の会員も多数おり、県内各地の在宅や施設の障害者が宿泊所として利用しており、県内の障害者のよりどころとなっています。
 そこで、地方自治の精神に基づき、県も独自の判断で身体障害者向けグループホームの設置について検討していただきたいと思います。
 私たちとしましては県行政に対し、以下の処置をとっていただきますよう要望いたします。
 

身体障害者の地域生活支援事業に関する要望

1.身体障害者向けグループホームの建設を促進するための条例制定。

2.県による身体障害者用グループホームの設置。ないし設置要望のある市町村への強い指導。

以上
 

要望するにあたっての理由

1.障害者福祉に関する、全国的・全世界的傾向について

(1)先進諸国の例をみますと、地域から切り離された大規模施設ではなく、施設を小規模なものとして地域社会に根づいたものにすべきであるとの考えが普及しています。重度の障害者施設などについてもグループホームのように小規模化してこれを身近な地域に配置し、そこから訓練施設に通所したりそのほかの地域のさまざまな施設を活用していくという流れになっています。このことは、厚労省内の機関である身体障害者福祉審議会の、97年12月9日付けの「今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)」においても報告されています。この世界的な流れを受けて、山口県でもグループホーム設置に向けてとりくんでいただきたいと思います。

(2)近年調査してみますと、全国で重度障害者のためのグループホームは神奈川県で13カ所、他大阪府にも設置されており、他県でもその動きがみられます。また山口県下では宇部市が、グループホームの設置を、98年に市議会で承認しています。この様な情勢下において、先進地域にみならい山口県におかれましてもその実施にご努力いただけますようお願いいたします。

(3)山口県でも、私たちのような重度身体障害者の数は多く、生活も厳しい状況にあります。私たちのような障害者の場合、基本的な教育も、教育免除というかたちで受けていないので、単身での社会生活を営むことができる人たちは、ごくわずかと思われます。その結果、私たちは成人しているにも関わらず重度障害者ということで施設に入れられたり親元で暮らさなければならなかったりして、障害者自身が社会と直接向き合っていく場を奪われてきました。

(4)現在借用しております住宅は、大家さんから今年中を目途に家屋を解体したいむね申し入れがありました(今年1月)。しかしながら、去年私どもで民間家屋をあたりましたが、民間賃貸住宅に障害者が入ることは、住宅改造などをともなうので嫌われるのが現実でした。また、障害者が集団で住むこと自体も嫌われてもいました。このような厳しい状況があるので、私たちは県にグループホーム建設への尽力を願う次第です。
 

2.私たちの介護の現状

(1)私たちの生活は、介護が24時間体制でなければなりたちません。その介護者を捜すことに大変苦労しております。現在は、大学や街頭に出向いて介護者を募りながら何とかローテーションを組み下記のように介護体制のやりくりをしております。また介護料につきましては、生活保護の中の厚労大臣承認の「生活保護他人介護加算料」のお金をだしあって内部規定をつくり下記のように支払っております。
?午前中の介護はホームヘルパーの訪問(各人、週16時間)を受け大変助かっておりますが、それだけでは介護が不足しているので、さらに2人の当センターの専従職員が同時に介護にあたっています。
?午後1時から6時までは、2人の専従職員の介護の下、当センターの事務室で各自が執務しています。
?午後6時から9時は、私たちが募集した介護者から4人、3時間を限度として夕食介護に来てもらっています。介護料の計算は、1800円×4人となります。
?夜10時から12時、朝7時から8時までは、就寝介護に1人来てもらっています。3時間分として、1800円支払っています。
 このように共同生活を営むことによって、少人数でも介護者を確保出来るように工夫し、不安定ながらも協力して、最低限度の共同生活の維持に務めてまいりました。

(2)生活費につきましては現在の4人が生活保護と障害年金から拠出して、共同財政のかたちで食材・生活必需品・光熱費等を支出しています。

(3)このようにして9年間、私たちは苦しみながらも共同生活を創造してきました。苦しみながらも共同生活をおこなってくる中で、私たちは知的障害者のみならず、全身性障害者にとっても共同生活をおこなっていくのが非常に有意義であるのだと、今では確信しています。
 

3.身体障害者が集団生活を営む意義

(1)私たちのような重度身体障害者にとって、幼い頃から受けた差別を客観的に評価することが非常に大事となります。特に私たちは体が動かないことによって、人間関係自体が狭く、関係してきた人たち(親や兄弟など)の考え方や価値観に大きく規定されます。同じような境遇を生き抜いた障害者同士で、自分の障害の総体(体の具合だけではなく)を、知っていくことが社会生活を送る上で、非常に重要になります。自分自身の障害の認知を正しくできなければ、どのようなケアが必要であるかというような判断もできません。このようなことをピアカウンセリングとよび、正しく自分を認識するすべとなります。全国でピアカウンセリングの講習は行われていますが、どれも講習期間は3泊4日程度と、全てをさらけ出し共有するには短すぎるのが現状です。そして重度であればあるほど、年数はかかります。しかしながら、私たちはグループホームをつくることにより、ゆっくり時間をかけながらお互いのことを理解しあい(批判もかねて)、生活をくみたてていけるような成果を生み出しつつあると自負しています。

(2)私たちの取り組みでは結果的に、年齢や職種、障害者・健全者を問わない幅広い交流がはかられています。私たちの介護は、下は10代から上は70代までの幅広い年齢層の人々によって支えられています。また介護を通じたコミュニケーションを、介護者が一同に会する「介護者会議」においてはかっています。コミュニケーションが軽視されやすい現代社会の中、介護を通して、地域内の幅広い交流が実現されている私たちの取り組みは重要な価値をもっていると思います。

(3)私たちのとりくみは、新しい障害者福祉のありようとして検討されるべきと考えます。当センターがつくりあげてきた蓄積は、山口県民の福祉向上にとって大きなプラスになっていると考えます。私たちは、障害者や高齢者が地域社会の接着剤的役割を果たし、新しい地域社会もうみだしていけると自負しております。
 

4.私たちの要望する、グループホームのイメージ

(1)夜間・就寝後の排泄などの夜間介護のため、男性介護者1人に宿泊してもらっていますが、夜間の介護者用の休眠の部屋がなく、大変不自由をかけています。そこで絶対条件として休眠室が必要になります。また各室に通じるコールボイス(インターホン)の設置が必要となります。

(2)現在施設に入居している障害者の中には、自立したいと願っている人も数名おり、そのための自立の条件や実態を体で学ばなければなりません。そのために必要な、宿泊体験室を一室設けていただくことを、あわせてご考慮下さることをお願いいたします。

(3)私たちの組織は任意団体であり、障害者の自立を支援する会員制をとっております。そのために機関誌の発行や会計などの事務的な仕事が必要となります。これら事務作業のために、私たちは専従職員をおいて運営すると共に、週1から2回の定例の会議をもっております。したがって、介護者も含めて10名程度がはいれる居間兼事務室も必要となりますので、この点もご考慮いただけるならありがたいと思います。

(4)現在はまだ4人で生活しておりますが、この中の一人の入居人(全身性障害者)は既婚者であり、つれあいも同じ全身性障害者であります。現状のままでは同居できません。近い将来この配偶者をむかえいれて、5人から6人のグループとしての体制でホームを確保したいと思います。さらに将来的には8人から9人の共同生活が可能な住宅を希望したいと思います。

 以上の観点から、県行政による全身性障害者向けのグループホーム設立への援助を要望します。よろしくご検討のほどお願いします。